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2025/10/24 |  社員ブログ

過去・現在を経て未来の建築デザインを想像する

建築とは、単なる空間の構築ではありません。
そこには時代の思想や技術、社会の価値観が凝縮されています。
近代建築(過去)から現代建築への変遷をたどりながら、未来の建築がどのような姿を描くのかを想像してみたいと思います。

- 目次 -
CONTENTS

1.近代建築──合理性と機能美の時代

近代建築は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、産業革命の波とともに誕生しました。鉄やガラス、コンクリートといった新しい素材の登場により、建築はそれまでの装飾的な様式から脱却し、機能性と合理性を追求する方向へと進んでいきました。
この時代を代表するのが、ル・コルビュジエによる「近代建築の五原則」です。ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード──これらは建築を地面から解放し、空間の自由を手に入れるための思想でした。彼が設計したサヴォア邸は、その理念の結晶であり、近代建築の象徴とされています。
日本においても、辰野金吾による東京駅や日本銀行本店など、西洋建築の技術と様式を取り入れた建築が次々と誕生しました。丹下健三が設計した代々木体育館は、モダニズム建築の美学と構造の融合を体現し、世界的にも高く評価されたのです。

2.現代建築──多様性と環境との共生

第二次世界大戦後、建築はさらに進化を遂げました。モダニズムの合理性を継承しつつも、現代建築はより多様な価値観を取り入れるようになりました。ポストモダンの時代には、過去の様式を再解釈し、装飾性や物語性を建築に取り戻す動きが見られました。
現代建築の特徴は、技術の進化とともに、環境との共生を重視する点にあります。伊藤豊雄は「機能に固執した近代建築の思想は、根本から変えなければならない」と語り、自然との関係性を重視した建築を提唱しています。彼が設計した「せんだいメディアテーク」は、構造体そのものが空間の表現となり、透明性と開放性を兼ね備えた建築として注目を集めました。
また、現代建築は情報化社会の進展とともに、デジタル技術との融合も進んでいます。BIM(Building Information Modeling)やAIによる設計支援、スマートビルディングなど、建築は単なる物理的空間から、情報と連動するインタラクティブな存在へと変化しています。

3.未来建築──感性とテクノロジーの融合

では、未来の建築はどのような姿を描くのでしょうか。
まず第一に、環境とのさらなる融合が進むと考えられます。ゼロエネルギー建築やカーボンニュートラルな素材の使用、都市全体がエコシステムとして機能するような設計が求められるようになります。建築は「持続可能性」という課題に対して、より積極的に応えていく必要があります。
第二に、建築は人間の感性に寄り添う存在になるでしょう。AIやセンサー技術の進化により、空間が人の感情や行動に反応する「感応建築」が登場する可能性があります。たとえば、ストレスを感じたときに照明や音響が変化し、リラックスできる環境を自動的に提供するような空間設計が可能になる時代もそう遠くはないかも知れません。
第三に、建築は「場所」から「体験」へと変化していくと考えられます。メタバースやAR技術の進展により、物理的な空間と仮想空間が融合し、建築は五感を刺激する体験装置となるでしょう。

4.建築が語る未来の物語

建築は、時代の鏡です。近代建築が合理性を語り、現代建築が多様性と環境との共生を語ったように、未来の建築は人間の感性とテクノロジーの融合を語ることになるでしょう。未来の建築は、単なる建物ではなく、人と自然、情報と感情が交差する「場」としての存在へと進化していきます。そこでは、建築が人間の行動や心理に応じて変化し、空間そのものが生きているかのように振る舞うことが期待されます。たとえば、住宅では住人の生活リズムに合わせて室温や照明が自動調整され、オフィスでは集中力が高まるような音響や香りが空間に組み込まれるかもしれません。
また、建築は社会との関係性も再定義されていくでしょう。都市空間は、単なるインフラの集合体ではなく、コミュニティの絆を育む場として設計されるようになります。公園や広場、図書館、駅などの公共施設は、より柔軟で多機能な空間へと変化し、地域の人々が自然と集まり、交流し、学び合えるような設計が求められるようになります。さらに、建築は文化や記憶を継承するメディアとしての役割も強まっていきます。過去の建築様式や素材を再解釈し、現代の技術と融合させることで、歴史と未来が共存する空間が生まれます。
たとえば、古民家をスマートハウス化するプロジェクトや、伝統的な木造技術を用いた未来型の公共建築などがその一例です。こうした建築は、地域のアイデンティティを守りながら、新しい価値を創造することができます。
そして、建築は教育や医療、福祉といった分野にも深く関わるようになります。空間が人の心身に与える影響を科学的に分析し、より快適で安全な環境を提供することが可能になります。
たとえば、認知症の方が安心して過ごせるような導線設計や、子どもの創造力を育むような教室のレイアウトなど、建築は人間の成長や回復を支える重要な要素となるでしょう。
このように、未来の建築は単なる技術革新の成果ではなく、人間の本質的な欲求──安心、つながり、創造、癒し──に応える総合的な芸術となっていきます。建築は、空間を通じて人間の物語を紡ぎ、社会の未来像を形づくる力を持っているのです。私たちがどのような未来を望むのか──その答えが、建築の姿となって現れるのです。
言い換えれば建築は、未来を語る言語であり、空間という詩を詠んでいるといえるかもしれません。
ですから我々建築に携わる者は、技術者という立場を忘れることなく、アーティストとしての役割をになっていることを決して忘れてはなならないと思います。