豊和開発 土地活用に
グッドアイデア

- コラム -
COLUMN

HOME › コラム › 建設現場における「安全管理」の最新トレンド

2025/12/19 |  社員ブログ

建設現場における「安全管理」の最新トレンド

建設現場において、人命の尊重は何にも代えがたい最優先事項です。労働安全衛生の確保は、企業が負うべき社会的責任(CSR)の根幹であり、プロジェクトの成功と企業の信頼に直結します。しかし、日本の建設業界は長らく、「人手不足」と「高齢化」という構造的な課題に直面しており、これが現場の安全管理をより複雑にしています。
従来の安全対策は、ベテランの経験や事故が起きた後の対策に頼る傾向が強く、本質的な「ヒューマンエラー」を防ぐには限界がありました。また、危険予知活動(KY活動)は重要ですが、作業員の体調変化や突発的なリスクを見逃してしまう可能性も否定できません。

現代の建設現場では、これらの限界を打破し、事故を未然に防ぐ為の「能動的・予防的な安全管理」へと劇的に進化しています。その鍵を握るのが、「IoT」や「AI」といったデジタル技術の活用です。デジタル技術は、危険を正確に予測し、現場で働くすべての人々の安全を確保するための強力なツールとなっています。
今回は、最新技術が建設現場の安全をどのように支えているのか、具体的な事例を交えてご紹介します。

- 目次 -
CONTENTS

1.「IoT」デバイスとデータ連携による「見える化」

能動的・予防的な安全管理の第一歩は現場の状況、作業員の行動、そして健康状態をデジタルで「見える化」することです。これを可能にするのが、多種多様な「IoT」デバイスです。

・ウェアラブルデバイス
作業員が装着するスマートヘルメットやスマートウォッチといったウェアラブルデバイスは、バイタルデータ(心拍数や体温、血圧など)をリアルタイムで計測し、管理者に送信します。これにより、特に気温の高い夏場における熱中症の予兆や、疲労による体調の急変を未然に察知し、休憩や作業中断の指示を出すことが可能になりました。これは、体調の自己申告に頼る従来の仕組みから脱却し、科学的データに基づいて作業員の健康を守る画期的な変化です。

・エリア監視と接近警告システム
現場では、重機と作業員の接触事故が重大災害に繋がることが少なくありません。このリスクを低減するために、重機や危険エリアの境界にビーコン(近距離無線通信)やGPSセンサーを設置するシステムが導入され始めています。作業員がセンサーを身に着けた重機に危険な距離まで近づくと、双方のデバイスから音や振動による警告が発せられるというものです。このシステムは、死角が多い大型重機の周囲や、視界の悪い夜間作業において、極めて高い接触災害防止効果を発揮します。

2.「AI」・画像認識技術による「不安全行動」の自動検知

「IoT」で収集したデータに加え、「AI」と画像認識技術は、人間の目では追いきれない現場の危険を自動で発見し、管理者の負担を軽減します。

・「AI」カメラによるリアルタイム監視
現場に設置されたネットワークカメラの映像は、「AI」によって常時解析されています。「AI」は、あらかじめ学習した多数の画像データに基づき、「高所作業中の安全帯の未装着」「指定エリアでのヘルメットの脱帽」「立入禁止エリアへの侵入」といった「不安全行動」や「不安全状態」を瞬時に識別します。危険が検知されると、即座に管理者や作業員本人に警告を発します。
従来の安全パトロールは、時間と場所に限りがありましたが、「AI」カメラは24時間体制で現場を監視し続けるため、安全指導の根拠となる客観的な証拠(ヒヤリハット事例)を収集する上でも非常に有効です。

・重機運行の自動化と制御
さらに進んだシステムでは、重機自体に搭載された「AI」が、カメラやセンサーを通じて周囲の状況を把握します。人や障害物との衝突リスクが高いと判断した場合、オペレーターの操作を上書きして自動で減速・停止させる安全システムも導入されています。この技術は、特に経験の浅いオペレーターでも安全性を確保し、人為的ミスによる重大事故を排除する上で欠かせない要素となりつつあります。

3.デジタル技術がもたらす「リスクの事前回避と予知」

技術の進化は、事故が起こる前にリスクを取り除く「予知保全」の領域にも及んでいます。

・安全シミュレーション
現場の構造物や環境をデジタル空間に再現するデジタルツイン(仮想現場)の技術は、安全管理に革新をもたらしました。この仮想空間上で、資材の運搬経路、重機の動線、作業員の配置などをシミュレーションし、事前に衝突リスクの高い箇所や危険な作業手順を特定・検証することが可能です。これにより、実際に工事を始める前に最も安全な計画を確立することができます。

・環境データの統合管理とリスク予測
また、風速、温度、騒音、振動などの環境データを統合的に管理し、過去の事故データや作業員のバイタルデータと照合することで、「いつ、どこで、どのような種類の事故が起こりやすいか」というリスク予測モデルを構築する試みも進んでいます。これにより、従来の単なる監視を超えた、より高度な「予知型安全管理」が可能になりつつあります。この取り組みは、特に天候や地盤の変化が安全に直結する土木・建設現場で大きな効果を発揮します。

4.まとめ:未来の建設業を支える「人中心の安全文化」

「AI」と「IoT」の導入により、建設現場の安全管理は、経験と勘に頼る時代から、データとテクノロジーに基づいた予防的かつ科学的な管理へと大きく転換しています。

技術の役割は、人間の目を増やし、判断を助け、そして危険な作業から作業員を遠ざけることにあります。しかし、忘れてはならないのは、これらの技術はあくまで「現場で働く人々の安全」を守り、作業員のウェルビーイング(心身の健康)を高めるためにあるということです。

建設業が持続可能な産業として発展していくためには、最新技術の導入はもちろんのこと、技術によって生まれたゆとりを、より本質的な安全教育やコミュニケーションに注ぎ、「人中心の安全文化」を醸成することが重要です。

デジタル技術を最大限に活用し、「危険ゼロ」の現場を実現することこそが、企業の信頼を高め、建設業界全体の未来を力強く支える土台となると思います。