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2019/09/14 |  社員ブログ

福祉施設の建設コストと設計について

 今回は設計活動の中で建物に関する「お金」について記事にしたいと思います。 

 建物に掛かる費用について福祉施設では大きくイニシャルコスト(建設費、備品費用)とランニングコスト(建物維持修繕費、光熱費、保守点検費など)と運営に係る費用の大きく3つが挙げられます。このすべてを合わせてLCC(ライフサイクルコスト)と言う考え方をし、LCCを総合的にマネジメントすることがコスト削減のカギとなってきます。一般的にランニングコストはイニシャルコストの5~6倍かかると言われており、建物そのものの寿命より設備等の更新のし易さを考えて設計を進めなければ、改修費用に大きな差が出てきますので、機械の設置スペースや配管スペースなどの更新作業に必要なスペースついて考えておく必要があります。建設コストが高騰する中で、目先のイニシャルコストだけを落とすために更新作業の費用が上がってしまっては元も子もない状態になってしまうのです。中長期的に考えた設計を進めていく必要があるので、順に説明してまいります。また、高齢者施設では介護に係る人件費(人員配置が法的に決まっているので)についてよく考えておく必要があります。

- 目次 -
CONTENTS

1.企画設計段階におけるコスト決定について

 福祉系施設の多くは、行政の公募制となっており、公募条件に沿って、運営側と最良の平面計画を検討し、行政へエントリー(応募)します。晴れて、予定事業者に選定されれば、行政との折衝を行いながら、創設予定の福祉施設の設計を進めてゆきます。企画段階で、LCC(ライフサイクルコスト)に係る大きな決定事項を決断していく必要があります。公募で施設の定員数に対してをどうするのか。定員数によって建物の大きさが変わり、LCCに大きな影響を及ぼし最適な解を検討し定員数の決定を行います。また、公募されている建物の用途以外に複合的な用途を入れて戦略とするのか検討を行います。例えば、特別養護老人ホームの公募に対して、ショートステイなどを組み込んだり、デイサービスの施設を複合させて通所から入居までの建物とするのか、または地域交流拠点や災害時の拠点としてのスペースも設けたりすることを企画段階で検討してゆきます。これは、選定する側の行政へのポイントアップにもつながり、選定確率が向上するからです。その中で投資可能な額の算出や資金計画の立案をこの時点で行ってゆき、大きな方向性の決定をします。

2.設計段階におけるコスト決定について

 基本設計では、大きく動線の整理とコストバランスの割り振りを行います。動線の整理ではスタッフの動線、利用者の動線を検討し無駄がないように設計を進めます。スタッフ動線に関しては人員配置基準があるので、特に夜間帯の人員配置について無駄が生じない様、注意して基本設計を進める必要があります。人件費に大きく係わってきますので、LCC(ライフサイクルコスト)に影響を及ぼします。また、利用者の動線とスタッフ動線は明確に分けた動線とすることで、建物が無駄に大きくならない様、配慮して設計を進めてゆきます。
 実施設計では、建物の細かい仕様を定めてゆき、入居の建物であれば、快適に居住できる空間の設計や通所の建物であれば、非日常感の演出など工夫を凝らしてゆきます。コストバランスの割り振りは仕様のグレード感やコストの掛ける所と削減する所を調整を行い、企画段階のイニシャルコストとなるように調整を図って設計を進めてゆきます。また設備については、空調方式を電気にするのかガスにするのか、床暖房を設置するのか、断熱性能をどうするのかなどの決定を行ってゆきます。建築工事(イニシャルコスト)はこの設計図書に基づいておこなわれますので、設計段階で建物の品質が決定します。

3.見積・入札について

 私たちが普段、買い物をする商品には、値札が付いており、価格は同一性能のものであれば基本的に一定です。例えば缶コーヒーが120円前後で自販機でもコンビニでも購入できます。それは生産コストが同一で納入コストもほぼ、同一で販売コストも同一なので、消費者は同じプライスで購入することができます。しかし、建築工事を伴う建物は、その敷地での一品生産となり、工事を行う工務店、ゼネコンによって調達コストも異なり、建設資材は時期によっても変動し、労務単価も上下します。工務店、ゼネコンの営業戦略や受注意欲、需要バランス、発注者との関係性などによってプライスは変動します。
 そこで、適正な価格で発注するために数社の見積を取ります。行政の交付金(補助金)などを受ける場合は、行政の指導に基づく入札を行い、建築工事の発注業者を決定します。労務費の高騰や人材不足によって、建設費用が高騰する傾向にあるので、入札が不調となり予定価格(発注者(運営者)側の予算金額や一般的な労務単価や資材コストを見込んだ価格)の見直しや設計変更を加えて再入札となる場合もあります。

4.施工段階におけるコスト管理について

 建設工事段階では建物の表装や設備に係る最終決定をどんどん下してゆきます。その中で設計段階とは異なる仕様を選択した場合、コストの増減が発生します。発注者(運営者)、設計者、施工者の三位一体で協働しながら、コストがオーバーしないように調整したり、より良い空間となるように最終検討し建物の完成に向けて進めてゆきます。また、完成後必要となる、家具やカーテン、備品の設置方法についても最終決定をしてゆきます。

5.まとめ

 設計を進めて行く中でのコスト管理について紹介させて頂きました。弊社では、設計スタッフが事業主様の思いを形にするため日夜、努力しております。実績を随時更新してゆきますので閲覧して頂ければ幸いです。
【設計監理部 森川】