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2025/11/28 |  社員ブログ

一時の建築が魅せた半年間の舞台

今回は、2025年に大阪・関西で開催され、半年間にわたり多くの人々の注目を集めた「大阪・関西万博」について取り上げます。
私も何度か足を運び各国パビリオンや会場の建築を見てきました。短期間の開催ながらも、最新技術とデザインの融合が随所に見られ、非常に刺激的な体験となりました。会場では、建築そのものが展示物のように存在し、見る・歩く・触れるといった体験を通して、それぞれの国や企業の思想を感じることができました。パビリオンの外観や素材、内部の演出までが一体となって世界観を表現しており、歩くだけでも世界を旅しているような、そんな気分にさせてくれました。短期間のイベントとは思えないほど、空間づくりに工夫が凝らされていました。その魅力を建築の視点からお伝えしていきます。

- 目次 -
CONTENTS

1.世界が集った”体験の場”としての万博

 みなさんもご存知の通り、2025年4月から10月にかけて開催された大阪・関西万博は、1970年以来55年ぶりに日本で開かれた国際博覧会です。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、世界160を超える国と地域が参加しました。
 各国パビリオンでは、それぞれの文化や価値観を建築デザインや展示に込め、会場全体が多様な世界観で満たされていました。建築的に特に興味深かったのは、パビリオンが単なる展示施設にとどまらず、国を象徴する空間としてメッセージを発信していたことです。素材や構造、形態が文化背景と結びつき、来場者は建築を通して各国の考え方や暮らしの価値観を体験できました。
 こうした“建築が語る展示”の工夫は、訪れた人々の関心を強く引きつけ、SNSやメディアでも大きく取り上げられる結果となりました。
短期間の開催でありながら、建築が人々に文化を伝える重要な役割を果たしていたことを実感しました。

2.仮設建築の自由度と挑戦

 万博建築の大きな特徴のひとつは、会期終了後の撤去を前提とした仮設建築であることです。通常の建築では、耐久性や法的制約、維持管理など、多くの条件が設計を縛ります。しかし、仮設建築は「半年間使えればよい」という明確な期限があるため、構造や素材、工法の選択に大きな自由度が生まれます。
 例えば、大屋根リングや一部のパビリオンでは、軽量鉄骨や木質ユニット、膜構造が積極的に採用されました。施工性や分解・再利用のしやすさといった点も設計段階から考慮され、サステナブルな視点を取り入れた建築が目立ちました。短命な建築であっても、設計思想や環境配慮が反映された建物は、限られた期間であっても人々の記憶に残る空間として成立していました。
仮設建築であることが、通常の恒久建築では難しい大胆なスケールや形状への挑戦を可能にしています。その意味でも、万博の建築群は、短い期間でありながらも人々の記憶に残る空間をつくることができ、これからの建築の可能性を示す存在だったと感じます。

3.大屋根リングが作り出した体験の連続性

会場全体のシンボルとして建設された「大屋根リング」は、人と空間の関係性を考えた建築の好例でした。直径約600メートルのリング状の大屋根は、木造を主体に、複数の施工会社がそれぞれ異なる組み方で施工されました。
伝統的な貫工法を応用することで、来場者が自由に移動できる、印象的で居心地の良い空間が生まれました。その下を歩くと、光の差し方や風の通りが場所によって変化し、時間帯や天候によって空間の表情も変わります。たとえば、夏の昼間は暑さを避けるため人々が影を求めて移動し、夜は花火を見るために大屋根リング上に上がる…大屋根は人の動きや行動に呼応する体験型の空間として設計されていることを実感しました。
さらに、短期間の仮設建築として組み立て・解体を考慮しながら、大胆なスケールと自由な形状を実現した点も注目されます。
仮設でありながら、大屋根リングは訪れた人々の記憶に残る空間として機能し、建築の可能性を示す挑戦的な事例となりました。

4.半年間の命を持つ建築が残したもの

今回の大阪・関西万博を通して、短期間の開催であっても、建築が人々に与える体験や印象は非常に大きいことを改めて感じました。仮設建築や大屋根リングのような挑戦的な建築は、制約があるからこそ生まれる創意工夫や大胆な設計の可能性を示しています。
建築は単に空間や形をつくるだけでなく、訪れる人々の行動や感覚、文化的な体験を設計するものです。今回の万博で得られた学びや示唆は、今後の私たちの設計業務にも活かせる貴重な経験となりました。
短期間の展示建築でありながら、記憶に残る空間をつくる――それこそがこれからの建築に求められる、新しい視点のひとつではないでしょうか。建築は完成した瞬間がゴールではなく、使われる時間そのものをどうデザインするかが本質だと感じます。半年間という限られた命を持った万博の建物たちは、まさに“時間をデザインした建築”でした。建物が消えた後にも、人々の心に風景として残る――そんな建築を、自分自身も目指していきたいと思います。