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2025/07/11 |  社員ブログ

『学生設計』vs『実務設計』

4月から豊和開発の設計監理部に新入社員として入社しました。
設計職として働き始めてまだ日が浅いですが、日々の業務を通して、学生時代に描いていた図面と実務で求められる図面の間に、

大きな違いがあることを感じています。

大学で学んできたこれまでを振り返りつつ、実務に触れはじめた今だからこそ見えてきた「建築学生」と「実務設計」の違いについて、

ひとつの気づきを記してみたいと思います。

- 目次 -
CONTENTS

1. 学生時代の設計は「伝えること」への模索だった

学生時代、手描きで図面やパースを描くことが多く、線の太さや表現のメリハリといった図面表現の基本には、ある程度の意識を持って取り組んでいました。図面は、設計者のアイデアや世界観を他者に伝えるための表現手段であり、空間の面白さや独創性をいかに魅力的に提示できるかが問われるものでした。

また、図面の配置バランスや視線の流れ、情報の強弱といったレイアウトの工夫も重視されており、見た人にとってどこから読み始め、どこに注目すべきかが自然と伝わるような構成が求められていました。そしてコンセプトを図面にどのように落とし込むかといった「物語性」も大切な要素として扱われていました。空間そのものの完成度以上に、それをどう伝えるか――限られた時間と限られた相手の中で、いかに印象的に、わかりやすく伝えるかが学生設計では重視されていたように思います。
そのため、納まりや構造、安全性といった現実的な制約は、設計の初期段階では深くは問われず、図面も「プレゼンテーションのための媒体」として機能していました。完成した空間を施工するための資料ではなく、アイデアを語る手段だったのです。

2.実務に入って見えてきた図面の「役割」

今年4月、私は建築設計職として社会人になり、実務における図面と向き合うなかで、

その役割や意味が学生時代とは大きく異なることに気づかされました。

実務の図面は、設計者の思いやアイデアを表現する手段であると同時に、施工者や構造・設備担当者、行政、施主、協力会社など、数多くの関係者との意思疎通を図るための“共通言語”でもあります。

誰が見ても理解できること、誰が見ても同じ解釈にたどりつけること――それが求められるのです。

学生時代の図面は、主に教授や講評者など、限られた人に向けて描かれたものでした。けれども実務では、図面はさまざまな立場の専門家たちが“読む”ものであり、そこに描かれている情報が誤って伝われば、施工に大きな影響を与えてしまいます。自分が伝えたいことを描く、という姿勢から、「相手がどう読むか」を意識する描き方への転換が求められていると実感しています。また、設計業務では単に空間のアイデアを図面に落とし込むだけでなく、建築確認申請などの法的手続きや提出書類の作成も不可欠です。特に法令を正しく理解し、適切に対応できるかどうかは、設計者の責任の一部です。図面の中に記載される数値一つ、記号一つが、確認申請に関わる重要な要素であると同時に、施工精度や建物の安全性にも直結していることを、日々の業務の中で少しずつ学んでいます。

3.垂水図書館建て替え計画に見る図面の“伝達力”

昨年、神戸市が発表した新・垂水図書館の建て替え計画に強い関心をもっているので、一つの例として挙げてみようと思います。
新図書館は、現在の施設の約6倍の規模へと拡張され、場所も垂水区役所跡地に移ります。設計は、フジワラテッペイアーキテクツラボ、タトアーキテクツ、トミトアーキテクチャの3者による設計共同体が担っており、2025年9月開館予定となっています。

カフェスペースや屋上広場、多目的ホールや子ども向けエリアなど、これまでの「静かに本を読む場所」としての図書館像を大きく塗り替え、地域に開かれた“滞在型の複合施設”として計画されています。こうした複雑な用途を持つ施設では、設計段階での図面の情報密度や構成力が非常に重要です。例えば、飲食可能なエリアがあれば、排気設備や清掃・ごみ処理の動線、衛生基準などを明確に設計する必要があります。また、屋上空間を人に開放するのであれば、防水仕様、落下防止、安全管理の計画も必須になります。

それらの条件を、構造・設備・法規などの多職種と共有し、かつ施工者に誤解なく伝えるには、単に美しい図面や正確な寸法を描くだけでは足りません。読み手の立場や知識、解釈の背景を意識しながら、わかりやすく的確に伝えるための図面の“構成力”が求められているのです。

4.私たちの仕事にも通じる視点

今回は垂水図書館の建て替え計画を一つの例として挙げましたが、私たち豊和開発が日々設計を手がけている福祉施設や保育所などの建築においても、同じように「使う人」の視点に立ち、多様な使われ方を想定した設計が求められています。

規模や用途こそ異なるものの、空間の「使われ方」まで丁寧に想像し、それを図面を通して他者に的確に伝えていくという点においては、垂水図書館のような大規模な公共建築とも共通する部分が多くあると感じます。

これからも、空間の魅力を“魅せる”だけではなく、“伝える”設計を意識しながら、実務の中で一つひとつの図面と誠実に向き合っていきたいと思います。