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2026/02/27 |  社員ブログ

【コンセプト】=建物に「心」を宿すプロセス

建築設計の仕事は、単に図面を引くことではありません。2026年現在、社会の価値観はますます多様化し、単なる効率や利便性だけでは語れない「心地よさ」や「心の豊かさ」が、建築の価値を左右する時代となっています。
私たちは、それを「コンセプト」と呼んでいます。しかし、コンセプトとは決して難しいスローガンではありません。それは、施主様の想いや、そこで過ごす方々の日常を想像しながら、余計なものを削ぎ落として見つけ出す「たった一つの宝物」のようなものです。本稿では、私が普段どのようなステップで、その「宝物」を具体的な建物の形へと変えていくのか。あえて「捨てる」ことから始める思考の道のりについて考察したいと思います。

- 目次 -
CONTENTS

1.「引き算」から始める― 本当に大切なことを見つけるために

新しい施設を計画する際、私たちの前には膨大な情報の波が押し寄せます。施主様の熱い願い、運営上の効率、厳格な法規制、予算、そして地域の文脈。「あれもしたい」「これも必要だ」という要望は、どれもが正解であり、大切な想いです。しかし、そのすべてを等価に、いわれるままに詰め込んでしまうと、建物の個性はぼやけ、どこか落ち着かない、顔の見えない空間になってしまうことがあります。
そこで私が大切にしているのが、「消去法(引き算)」という考え方です。
これは、何かを否定する作業ではありません。最も守るべき「核」を浮かび上がらせるために、周辺の要素を一度整理し、優先順位をつけていく、いわば「情報の剪定(せんてい)」です。例えば、介護の現場において、ホテルのような「非日常の豪華さ」と、自分の家のような「日常の寛ぎ」のどちらが、その施設が目指す終の棲家として相応しいのか。保育の現場において、大人の都合による「管理のしやすさ」と、子供の自発的な「冒険心」のどちらに軸足を置くべきか。
多くの選択肢を削ぎ落とした最後に、「どうしても手放せなかったもの、これだけは外せない・・・」
 それこそが、その建築が果たすべき「本当の使命」であり、コンセプトの原石となります。この「引き算」のプロセスを経て選び抜かれた価値観は、流行に左右されない強さを持ち、建物の骨組みを支える精神的な柱=「アイデンティティ」となるのです。

2.キーワード=「合言葉」

消去法によって残された「使命」は、次に「キーワード(合言葉)」という形に凝縮されます。これは、私たち設計者と、施主様、施工者、そして将来そこで働くスタッフの方々全員が、同じグラウンドに立つための羅針盤となります。
キーワードは、難しい専門用語である必要はありません。むしろ、誰もがその光景をパっと思い浮かべられるような、血の通った言葉であるべきです。なぜなら、建築とは多くの人々の手によって作られる共同作業だからです。
なぜ、言葉にすることがそれほど重要なのでしょうか。それは、建築に関わる多様な人々が、迷ったときに立ち返る場所を作るためです。大規模な建築プロジェクトでは、数えきれないほどの細かな決断を迫られます。タイルの色一つ、手すりの高さ一つを決める際にも、「この選択は、私たちの合言葉に合っているだろうか?」と自問自答する。言葉が強固であればあるほど、設計から施工に至るまでのすべての判断に一貫性が生まれます。
特に介護や保育の現場では、この「一貫性」が利用者の安心感に直結します。スタッフの方々も、その建物が持つ意志をキーワードとして共有することで、自分たちのケアの在り方と、建物のしつらえをリンクさせることができるのです。言葉は、単なるデザインの統一感を超え、そこに集う人々の心を一つにし、建物に命を吹き込む力を持っています。

3.モチーフへの昇華-「カタチ」への翻訳

合言葉が決まれば、いよいよそれを具体的な建築の要素へと翻訳していく「モチーフ」の段階に入ります。言葉という目に見えないエネルギーを、五感で感じられる「かたち」「色」「空間」へと昇華させていく。このプロセスこそが、設計において最もクリエイティブで、かつ緻密さが求められる瞬間です。
① 「かたち(造形)」への昇華
言葉が持つ温度感やリズムを、物理的なシルエットへと変換します。
かたちは、利用者の心理に無意識に働きかけます。お年寄りがふと手を添えたくなる手すりの滑らかなカーブ、子供が好奇心のままに覗き込みたくなる小さな丸窓。キーワードから導き出された「かたち」は、単なる意匠ではなく、人の行動や感情を優しく導く無言のメッセージとなります。
② 「色」への昇華
色は、空間の「体感温度」や「時間軸」を決定づける重要な要素です。
合言葉が「穏やかな」であれば、視覚的な刺激を抑えた、素材そのものが持つ淡いベージュや木材の暖色をモチーフに選びます。一方、「はなやぎ」がテーマであれば、自然界に存在する鮮やかな色をアクセントとして、空間にリズムを与えます。
色のコントラストが視覚的な識別の助けとなり、自立した生活を支える安心感を生みます。言葉の深みに合わせた色彩計画は、無機質な構造物に、まるで呼吸をしているかのような情緒を吹き込みます。
③ 「空間」への昇華
「かたち」と「色」が組み合わさり、そこに「光」や「風」の動きが加わることで、初めて「空間」という体験が生まれます。これこそがモチーフの集大成です。
合言葉が「寄り添い」であれば、自然と人が集まり、ゆるやかに視線が交差する、縁側のような吹き抜け空間を。合言葉が「静か」であれば、あえて光を絞り、自分自身と向き合える小さな、けれど豊かな奥行きを持つ居所を。
空間の「密度」や「広がり」をキーワードに合わせて微調整することで、ただの「部屋」が、人の心に響く「居場所」へと変わります。一つのモチーフを建物全体に、ある時は構造として、ある時はディテールとしてリフレイン(反復)させる。この一貫性が、利用者に「ここは自分のための場所だ」という深い確信と、場所への愛着を与えてくれるのです。

4.削ぎ落とした先に宿る、建築の意志

なぜ、建築において、これほどまでにストイックなプロセスが必要なのでしょうか。それは、これらの建築が「日常の舞台」であると同時に、利用者の「尊厳」や「可能性」を支える器だからです。
「引き算」で本質=コンセプトを磨き、「合言葉=キーワード」で想いを束ね、「かたち・色・空間=モチーフ」で五感に訴える。この一連の流れを丁寧に行うことは、建築に「思い」を組み込む作業に他なりません。論理的に、かつ愛情を持って整えられた空間は、たとえ言葉を交わさずとも、そこにいる人たちを包み込み、励ます無形のケアとなるのです。
設計施工のプロセスは、足し算の連続のように見えて、実はその本質は「何をしないか」を決定する引き算の行為です。
クライアントの皆様が胸に秘めた、まだ言葉にならない熱い想い。それを丁寧に伺い、周辺にある不必要なノイズを一つひとつ削ぎ落としていった先に残るものは、単なる構造物としての建物ではありません。それは、そこに集う人々の営みを肯定し、未来を照らす「建築の意志」そのものです。
私たち豊和開発株式会社は、この論理的かつ情熱的な作法を繰り返すことで、介護・保育という尊い場に、揺るぎない価値と、心安らぐ居場所を与え続けたいと願っています。